佳き日に
「あと、こいつもなんだかんだでけっこう出血してるから琴と一緒に治療してやってくれ。」
「分かった。」
ありがとうと言って笑った鉛丹の顔が淋しげだったのは気のせいではないだろう。
敵だとか、味方だとか、そんなものどうでも良くなった。
彼の守ったものを、私も守っていこうと思えた。
残される方も辛いだろうが、先に行ってしまう方も辛いはずだ。
琥珀はパンッと自分の頬を叩いた。
感傷に浸るのはまだ早い。
やるべきことはたくさんある。
琴と桔梗と共に二階から飛び降り、爆破に巻き込まれないよう全力で走る。
二人抱えて走るのはちょっと無理そうだが、火事場の馬鹿力だ。
人間本気でやればなんとかなるだろう。
「行こう。」
そう言って琥珀は桔梗をおぶる。
琴は片足がなくても壁にもたれればフラフラしながらでも移動出来るようだ。
窓の所までは頑張ってもらおう。
もう鉛丹の方は振り向かなかった。
そしていつか、全部終わったら桔梗に話してあげよう、と思った。
鉛丹が十年以上も秘密にしていたことを。
きっと鉛丹は良い顔をしないだろう。
意地っ張りだから。
それでも、やっぱり桔梗には話しておくべきだ。
光に目を細めながら琥珀は歩いた。