佳き日に




「いや、あっちの細い奴は薬剤師みたいなもんだ。薬、毒、解毒剤、あいつは何でも作れるぞ。」

「へぇ。」


確かに細い男は菘に背を向けたくさんのビーカーが並ぶ棚の近くで何やら探し物をしている。

ふと、雪の話を思い出した。


「細菌に対抗する薬とかって作れるの?」

「ワクチンのことか?」

「多分それ。」

「時間さえあれば作れるんじゃないか。」


太った男は菘の肩に包帯を巻きながらそう言った。

深くは考えていないようだが、間違ってはいないのだろう。


「前に、メモリーズを殺す細菌持ってきた男いなかった?」


万が一、億が一の可能性。
鼻から期待はしていなかったが、一応菘は尋ねた。
太った男は細い男の方を向き声をかける。


「いたっけ?」

「いた。十年以上も前だったけど。」

「十年?」

「そう。あとメモリーズを殺すっていうか、元に戻す作用のある細菌だったねあれは。」

「戻す?」

「ゴミとゴミの結合部分の細胞を壊してゴミに戻すって感じだ。」

男の説明はよく分からなかった。
原理はどうであれその細菌によって結果的にメモリーズは死に至るのだろう。

それよりも問題なのは男が細菌をこの医者の元へ持ってきたのが十年以上前だということだ。
雪は数週間前の椿の死と同時に男が細菌を盗んだと言っていた。

でもこの医者は十年以上前と。

雪の予想は間違っていたのか。




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