佳き日に
「その細菌のワクチンはもう出来たの?」
「あぁ、うん。ワクチンっていうか、細菌に負けないように結合部分の細胞を強化する働きのある薬が一ヶ月程前に出来たよ。依頼してきた男に全部あげちゃったから今はもうないんだ。」
一ヶ月前。
椿は死ぬ前にすでにメモリーズを救う薬は出来ていたのか。
ならば何故、椿は殺されたのだろう?
菘はぐちゃぐちゃの頭で考える。
「君もメモリーズだろう?金と時間はかかるけど、今から薬作ってあげようか?」
「時間ってどのくらい?」
「二週間。調合がめんどくさいし配合する材料もなかなか手に入らないものばっかりでさ。」
遅い。
明日にでも政府が細菌をばらまく可能性があるのに二週間も待っていられない。
そこではたと菘は思考を止めた。
そもそも、菘の目的は椿が墓に残した何かを見ることだ。
薬を手に入れることじゃない。
生きられるんだったら生きたいが、優先順位は椿の方が上だ。
そう考えると、途端にスッキリした。
晴れ晴れと、そんな気持ち。