佳き日に
「敵の立場にいるくせに頼みなんて調子良すぎるってことは分かってる。でも、頼めるのなんてお前しかいないからさ。」
「何の話か分からなきゃ返事できないからさ、早く本題に入ってよ。」
少々戸惑った琥珀の声がした。
後ろで盗み聞きしているのがバレやしないかと内心ヒヤヒヤした。
「桔梗のことなんだ。」
「桔梗?」
「前にお前尋ねてきただろ。俺と桔梗の誕生日が六ヶ月しか離れてないってこと。」
「あー、十月十日じゃないんだねって言ったね確かに。」
十月十日。
妊娠期間の話をしているのだろう。
一瞬の間が空いて、ポツリと鉛丹はこぼした。
「兄弟じゃないんだ、本当は。」
「……そっか。」
「メモリーズの子供が小さい頃に親を失くすのは別に珍しいことじゃない。俺と桔梗もそうだったんだ。小さい子供は殺し屋や情報屋の手伝いをしてなんとか生きていくしかない。桔梗と会ったのはどっかのヤクザの組の麻薬だとか武器だとか保管されてる倉庫の掃除係りとして雇われたときだった。桔梗はもうその時のことは覚えてないみたいだけどな。」
スラスラと話をする鉛丹はやけに無機質な声を出していた。
わざとなのかどうかは琴には分からなかった。