佳き日に
「そんなの好きだからに決まってるじゃないですか!」
「私のことを!?48にして無職の私を!?」
「いややっぱり若さゆえの過ちですねっ!」
「相手も47だ!」
とてもくだらない女子高生との会話を思い出す。
あの子も物好きに、なんで私のところに遊びにくるのかいつも不思議に思う。
そんな物思いにふけっていたらまた携帯はヴーッと鳴った。
あの男も暇なのか。
“海、好きですか?“
その文字を、言葉を見た瞬間、炭酸の海に投げ飛ばされたような気になった。
危うく右手に持っていたビールを落としそうになった。
シュワシュワ、パチパチと、34年も前の記憶が蘇ってくる。
大きな手、少し出ている喉仏に、黒ぶちの眼鏡。
記憶がなくなった私と、空白のままで終わった初恋。
確かに、私と彼との始まりも、そんな会話だった。
「海、好きなの?」