佳き日に
「学がない俺は、桔梗に何も教えてやれない。あいつの夢を手助けすることも出来ねーし、兄として何かしてあげることもできなかった。でもさ、最後ぐらいは、せめてあいつが一日でも多く笑っていられるようにしたいんだよ。」
何年後か先の未来のためにしてあげられることなんて何もない。
だったら、せめて明日。
彼が笑っていられるように。
「もうすぐ警察が俺と桔梗を狙ってくるはずだ。俺は何としてでも桔梗は生き延びさせてやるつもりだから、その時はまぁ、よろしく。」
「え、よろしくって何を?」
「んー、何だろうな。殺さないでほしいし、あいつが困ってたら助けてやってほしいし……。」
ジャリジャリと、地面をこする音が大きくなった。
「あぁ、あと、勉強教えてやってくれ。あいつなんだかんだ言って学校行きたがってるはずだから。」
少し明るい声音でそう言った鉛丹。
十秒ほど間を置き、琥珀が話を切り出した。
「ねぇ鉛丹。」
「ん?」
「鉛丹は死ぬつもりなの?」
一拍。
静寂が会話を包む。