佳き日に
「その予定だ。警察にはそれらしい嘘ついて、桔梗は本当は人間だったってことにするつもりだよ。」
そこまで話していいのか、と琴は心配になった。
それだけ琥珀が信用されているということか。
いや、信用とかそんなこと鉛丹は考えていないだろう。
ただ、琥珀は話がしやすいのだ。
何故かは分からないが、打ち明けても大丈夫という安心感が彼女にはある。
「鉛丹はそれでいいの?」
「いいとか悪いとかじゃなくて、最後くらい兄貴面したいんだよ。」
「それで幸せなの?」
鉛丹が面食らったのが雰囲気で分かった。
だが、すぐ笑い声に変わる。
「まぁ、学もないし社会的に認められてないしで確かに俺らの人生は人間から見たら幸せじゃないだろうな。でもな、実際そうでもないぜ。」
裏表のない鉛丹の笑い声は年相応の少年のものだった。
「俺が死んでも、きっと桔梗は覚えててくれるだろうし、たまには思い出してくれるはずだ。そーゆー奴がいるんだから、俺の人生はけっこう幸せな方だったんだよ。幸せなんてそんなもんだろ。」
そう言って笑っていた鉛丹は今、ぐったりしている桔梗を名残惜しげに見つめている。
柄にもないことをして恥ずかしかったから。
別れの言葉なんて聞きたくなかったから。
最後の最後に桔梗を気絶させた鉛丹の気持ちは鉛丹にしか分からない。