佳き日に
「でも、二十年以上経って、ようやく、生きててよかったなぁって思える瞬間があったの。」
生きててよかった。
エナカのその言葉だけで、雨は報われたんじゃないかと、琥珀は思った。
エナカが後悔のない人生を歩めれば、それだけで雨の死には意味があったはずだ。
「人が一人生きても死んでも、世界は何にも変わらないけどさ、生きていればいつか、よかったって思える日が来るんだよね。」
そう言うとエナカはやけに真面目な顔で琥珀の目を見た。
「雪って子たちは多分あんたの記憶を盗んであんたの前から消えるつもりだろうからさ、言いたいことがあるなら早めに言っておいた方がいいよ。」
へ、と音にならない声が出た。
雪たちがいなくなる。
エナカの言葉に琥珀の頭が真っ白になった。
エナカは辛そうに微笑む。
「許してあげて。雪たちだって、好きでそうするわけじゃないはずだからさ。」
許すも何も。
琥珀は俯いていた。
忘れたくない。
離れたくない。
そんな想いが胸で渦巻く。
だけど、現実はどこまでも残酷で、どうにもならないのだ。