佳き日に





「雪先輩って琥珀さんに甘いですよね。」

「……別に。最後だから一つくらいは願い叶えてやってもいいだろ。」


あ、と閏は目を瞬いた。

そうか、もう終わりなのか。


「じゃあ、言わなくていいんですか?」

「何をだ。」

「愛してるーってよくある青くさいセリフ叫んでみればいいじゃないですか。琥珀さんの記憶はなくなるんですから、たいして恥ずかしくないですし。一回くらい思いの丈ぶちまけてみましょうよ。」

「別にいい。」

「それはどっちですか。」

「やらないの方だ。」

どうやら雪は己の恋心を墓場まで持っていくつもりのようだ。
もう会うつもりはないのなら、言ってしまえばいいのに。
閏は口を尖らせる。



「恥ずかしいんですね。言わないと何も始まりませんよ。」

「沈黙は金って言うだろ。」

「雪先輩それ絶対使い所間違ってますよ。」


そんなたわいもない会話。


それから三分もしないうちに琥珀が戻ってきた。
再び車は動き出す。

いつもより風景が流れるスピードが遅いな、と閏は思い頬を窓に寄せた。








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