佳き日に
「エナカさん、あの子、メモリーズですよ。」
「目、黒かったじゃない。」
「いや、あれはカラーコンタクトといってつけるタイプの魔法でしてね。」
「それはつけまでしょ。というかカラコンだろうが魔法だろうが何だっていいよ。あんただって一回見逃したんでしょ?」
琥珀の居場所を教えてくれたのは白川だった。
つまりその時白川はすでに琥珀と一緒にいた桔梗がメモリーズだと分かっていたはずだ。
二人の兄弟は有名だったはずだから。
その時に殺すことも出来たのに白川はそうしなかった。
白川はもう、自分を政府側だなんて思っていなかったのだろう。
「で、でもエナカさん、見逃すのと戸籍を作ってあげるのとじゃリスクが全然違いますよ……。」
「いつまでウジウジ言ってるの。」
「でも……」
「戸籍作ってくれたら付き合ってあげるよ。」
ブンブンと振り回されていた白川の手がパタッと止まった。
フリーズ。
話すときに身振り手振りをするのは白川の癖なのだろうか。
というか、今までのヘラヘラとしたキャラは仮面で、こっちのオドオドしたのが素なのかもしれないな、とエナカは思った。
「了解ですっ!」
運動部のようなハキハキした声でそう宣言すると白川は慌ただしく出て行った。
手のひらを返すのが早いというか、呆れを通り越して、あの男はいっそ清々しい。
白川が出て行った後の半開きの扉を見て、エナカは一人おかしそうに笑った。