佳き日に
[1]
うまくいくだろうか。
一抹の不安をおぼえながら、琥珀は鏡に顔を近づける。
目、というか、目の縁が赤くなっていた。
充血している。
どうりで痛いわけだ、と琥珀は思った。
ゴミが入ったからとたくさん擦ったのがいけなかったのだろうか。
何かの健康番組で擦るという行為は目に良くないと言っていた気がする。
琥珀はそんなことを考えながらコンタクトレンズのケースの蓋を閉じた。
この状態じゃもう一度コンタクトを付け直しても痛いだけだろう。
おとなしく眼鏡をかけることにする。
洗面台の脇から眼鏡を取りかける。
途端に明瞭になる視界。
鏡にあちこち煤がついた自分の姿が映る。
うわ、汚い。
そう思い琥珀は煤がついた頬をゴシゴシ擦る。
こんな姿で花屋に行っていたのか。
エナカの家で鏡を見ておけば良かった。
そんなことを考えていたら、廊下の奥から近づいてくる足音が聞こえた。
「琥珀。」
雪の声だ。
顔を横に向けたら、扉の先に雪が立っていた。
ゆるく微笑んで。
とても優しく、悲しげな笑み。
なんとなく、終わるんだな、と琥珀も分かった。
哀しいとか、そんな感情は湧いてこない。
なんというか、ストンとあるべき所に収まっていく感じだ。
それが哀しいことなのかどうかは分からない。