佳き日に
「眼鏡貸してくれ。」
「いいよ。」
何も知らないフリをして、琥珀は眼鏡を外す。
黙っていることが優しさだとは思わない。
だけど口を開けば雪を困らせてしまいそうで。
だから、琥珀はいつものように笑う。
「ありがとう。」
眼鏡を受け取った雪はそう呟いた。
何でもないように言っていた。
だけどそれはきっと、彼の別れの言葉だったのだろう。
感謝と、謝罪と、寂しさが滲んだ言葉。
琥珀は顔を上げ、雪の目を見つめる。
茶色いビー玉みたいな目が潤んでキラキラと光っている。
その綺麗な瞳をよく目に焼き付けて、そういえばさっき初めて名前呼んでもらったな、と思った。