佳き日に
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覚悟はしていた。
秘密警察から言われたときすでに、覚悟はしていたはずなのに。
「………えっと」
黒い瞳にありありと困惑を浮かべる琥珀。
そこにはもう、今まで向けられていた温かみのある色はなかった。
覚悟していたはずなのに、胸に痛みが走った。
雪は苦笑いする。
「お前、道に倒れてた。」
「え!?」
目を丸くする琥珀。
雪は眼鏡を渡す。
胸を刺す痛みには気付かないフリをした。
「救急車呼ぼうと思ったんだが、寝てるだけだったから運んだんだ。」
「え!?すいません!」
「これ、鞄だ。」
「うわ!本当にすいません!」
琥珀はいそいそと重い鞄を背負う。
そしてふいに顔を上げ、雪の目を見上げてくる。
つぶらな黒い瞳に、一瞬胸が跳ねる。