佳き日に





分かっていた。
メモリーズが人間に恋をするなんて、身の程知らずだってことぐらい。
しかも、親子二人揃ってだなんて、とんだお笑い種だ。

本当に、なんて、なんて滑稽な話。

雪は手をぎゅっと握りしめ、唇を噛む。
それでも、良かったと思う。
馬鹿馬鹿しい考えだろうが、お前は間違っていると嘲り笑われようが。

正しいとか間違っているとかそんな話ではなく、本当に心から、良かったと思えた。

父の雨が、日記に書いていた言葉が、今頃分かった。
報われなくても、想いが届くことはなくても。
人生をやり直せるのなら、きっと同じことをするだろう。
何度も、会いにいくのだろう。

雪は目を閉じ、琥珀の笑った顔を思い出す。
大事にとっておこう。

琥珀が忘れても、俺はずっと覚えていよう。
じんわりと熱くなった目を、雪は急いで擦った。








“君が忘れても俺はずっと覚えているから”




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