佳き日に



[2]







ザーッと風の音なのか、雑音が聞こえる。
誤って録音しただけなのか。

桔梗がそう思って停止しようとしたら、ようやく声が聞こえた。



『兄弟じゃないんだ、本当は。』


鉛丹の声だ。
は、と息がつまった。

兄弟じゃない。
つまり、桔梗と鉛丹は、家族じゃない。

どんなタイミングでこの話をすることになったのか。
どうしてこれが録音されているのか。

桔梗が呆然としているうちにも、レコーダーは次々と鉛丹の声を流していく。
時々相槌を打っているのは琥珀だろうか。


『鉛丹は死ぬつもりなの?』


ノイズ混じりの琥珀の声に、胸がざわついた。
桔梗のポケットに鉛丹の携帯を見つけたときから感じていた予感。

なんとかそれを否定して欲しくて、桔梗はいっそう耳をすませた。





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