佳き日に
『いや、ホント、勝手なことして悪かったって思ってるよ。』
桔梗の苛立ちを察知していたのか、絶妙のタイミングで鉛丹の声が流れる。
『でもさ、俺が出来ることなんかたかがしれてるだろ?せめてお前にさ、一日でも多く笑っていてほしいんだよ。そのために死ぬのも悪くないって思ってるしな。』
兄として何かしてあげることも出来なかった。
先ほど聞いた鉛丹と琥珀との会話で鉛丹が言っていたこと。
兄としてとか、いらないです。
鼻からそんなもの期待してませんから。
桔梗はぎゅっと唇を噛む。
ただ、家族みたいにそばにいてくれれば良かったんです。
『お前がこれを聞いてるってことは、俺はもう死んでる。どんな死に方してんだろうな、俺。』
ははっと、鉛丹の笑う声がした。
『元気でやれよ、桔梗。明日も笑ってろよ。』
ブツリと、切れた。
再生終了。
静寂がやけに寒々しかった。
心から何か一つ欠けたような感じだ。
「ふざけんな。」
一粒の涙とともに、桔梗はそうこぼしていた。
敬語もつい忘れていた。
「プラネタリウムはどうなったんですか。」
さらにもう一粒。
二粒。
家族じゃなかった。
兄じゃなかった。
ただの、赤の他人。
それでも、いなくなったら泣き出してしまうくらいには、桔梗はその赤の他人のことが好きだった。
“せめて、君が明日笑えるように、”