佳き日に
[5]
バタンッと、音がして扉が開かれた。
足音が近付いてくる。
閏は振り返る。
「こんにちは。」
見慣れた顔。
だけどその声音も、目も、どこか他人行儀さが感じられて。
手にしていた淡いピンクの花束を閏はぎゅっと握りしめる。
「綺麗な花ですね。」
あなたから貰ったんですよ。
そう思ったが、閏は何も言わず微笑んだ。
一つお辞儀をすると琥珀は背を向けて歩いていってしまった。
別れの言葉などなかった。
そもそも、そんな言葉を交わすような関係ではなくなったのだろう。
他人。
道で一瞬すれ違っただけの、他人。
「閏。」
後ろから扉を開き雪が出てきた。
「その花束どうしたんだ?」
「琥珀さんが僕らにって。」
閏はそう言って花束の一つを雪に手渡す。
雪は受け取りながらも不思議そうな顔をする。
「雪先輩が記憶消す前に渡されたんです。」
「花屋でこれを買っていたのか。」
「でしょうね。」
確か花束ってけっこういい値段したはずだ。
高校生の彼女にとってはかなりの出費だっただろう。
顔を寄せる。
淡いピンク。