佳き日に
「せんべいは何で私にこれを渡したのかな。」
小さなガラス瓶を持ち上げ、白川の目の前でユラユラと揺らす。
中の液体もそれにともなって揺れている。
「なんでって……」
「だって別に私じゃなくてもいいじゃん。」
コトリ、と白川はビールを置いた。
音からして中身は空だろう。
そして二缶目を開け始める。
彼は意外と酒豪なのかもしれない。
「迷ってたんじゃないでしょうか。」
「迷う?」
「エナカさんと雨の息子、雪を会わせるべきかどうか。」
グビッと、気持ちいいくらいに白川はビールを飲む。
「エナカさんはようやく心に折り合いをつけたのに、それをまたかき乱すようなことがいいことなのか分からなかったんだと思います。」
エナカは光を反射してキラキラ光るガラス瓶を見つめる。
「そして、最後の最後に決めたんでしょう。良いか悪いかは置いといて、会わなくちゃ何も変わらない。後の判断はエナカさんに任せようと思ったんじゃないですかね。」
だからエナカさんに抗体を渡した。
白川の口元にはもう泡はついていなかった。
「後の判断って?」
「雨の息子を生かすかどうかです。」
白川はそう言って満足そうに微笑んだ。
ガラス瓶を見ながらエナカはせんべいの顔を思い出す。
アルコールの匂いが部屋に満ちる。