佳き日に





『あー、えっと、閏。』

「はい?」

『お前、生きてたんだな。』


ぶっ、と。
思わず閏は噴き出してしまった。


「い、今電話してるじゃないですか。」

むせながらもそう返す。


『いや、俺が知ってる奴ほとんど死んでて、生きてるの確認できたのお前だけだからさ、信じられなくて。』


そういえば関東は細菌をまかれるのが早くて抗体を広める時間もなかったんだな、と閏は思い出す。



「雪先輩と桔梗も生きてますよ。」

『そうか。』

「あ、でも雪先輩に連絡は取れませんね。携帯捨てて、どっかに出発しちゃいました。」

『それは、もう帰ってこないのか?』

「そうですね。どこかの田舎で読書暮らしでもするつもりじゃないでしょうか。」


軽く手を振って出て行った雪の背中を思い出す。
あっさりした別れだった。

でも、それでいいと閏は思う。
それぞれが次の場所を見つけたのだから、いつまでも前の場所にこだわる必要はない。





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