佳き日に
『お前はどうするつもりだ?』
「世界一周してみようと思っています。」
琴の荷物を漁っていたら出てきた「世界一周のすすめ」という本を思い出す。
「とりあえずまず始めにインドに行ってみようかと思ってるんです。辛すぎて日本人には絶対食べられないと言われているカレーがあるらしいんですけど、それ完食するつもりです。」
『いや、無理だろ。』
「できますって。辛さなんて感じませんし。」
短所も考えようによっては長所となる。
完食したら、インドの人たちは驚くかな、と閏は考える。
「あ、それでそもそも何の用だったんですか?」
『いや、金があってな。三千万くらい。生き残ったメモリーズ全員に山分けして欲しいんだ。』
三千万。
決して少ないとは言えない金だ。
誰が、何故そんな金をメモリーズに渡すのか。
電話の相手は何か企んでいるのか。
黙り込んだ閏の思いに情報屋も気付いたようで、慌てて弁明してくる。
『菘の金なんだ。』
「……菘さん?」
『あぁ。あいつが死ぬ前に生き残ったメモリーズにやってくれって、言ってたんだよ。』
菘さん、死んだのか。
閏はそう思った。
別に悲しくはなかった。
ただ、数日前まで生きていた彼女が、今ではもうゴミになっているのかと思うと変な感じがした。
「桔梗にあげてください。全額。」
『は?』
「では。」
そう言って、閏は電話を切った。
なんとなく菘の金が桔梗が明るい未来へ進むための手助けをしてくれれば、と思った。