佳き日に
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エナカが赤い女だということ。
雨を殺したこと。
白川のこと。
メモリーズを殺す細菌のこと。
そして、琥珀と閏と雪が桔梗を生かそうと働きかけてくれたこと。
エナカは全てを桔梗に話した。
せんべいと山犬の話をした居間で。
ガラス瓶を受け取ったときと同じ位置にエナカは座り、桔梗は向かいに座っていた。
話を聞きながら桔梗はずっとボロボロになった毛糸の帽子を触っていた。
焼け焦げ、糸があちこち飛び出ているそれは、もはや帽子とは言えない。
大事なものなのだろうか。
エナカが見つめているのに気付いたのか、桔梗がフッと笑う。
「兄さんから貰ったんです、コレ。」
「へぇ。」
ふんわりと笑った桔梗の顔は、どこか幼かった。
「僕が十歳の誕生日に、二分の一成人式だからとかわけのわからないこと言ってくれたんですよ。」
「いいお兄さんだね。」
「プレゼントくれたの、後にも先にもその一回きりでしたけどね。」
苦笑いして、ふっと、桔梗は笑うのをやめた。
その瞳に落ちた影をエナカは見逃さなかった。