佳き日に






「僕、夢があったんですよ。」

「将来の夢?」

「そんなとこです。」

プラスチックのコップに入った水を見つめながら桔梗は淡々と語る。


「でも、もうその夢を叶える必要もなくなったんです。みんないなくなってしまったので。」

いなくなった。

よく分からないその言い方に琥珀は首を傾げた。


「人間が、憎いんです。」

吐き出したような桔梗の言葉に琥珀はさらに首を傾げる。


「人間?」

「はい。僕の大切な人を殺して、僕の夢を奪った人間が。」

憎い、と言ったわりに桔梗の表情は変わらなかった。


「叶えたい夢も、幸せになってほしかった人も、全て奪われたんです。」

もう一度。
同じことを桔梗は繰り返し、悲しそうな声でこう言った。


「だから僕、人間に復讐しようと思ってます。」


復讐。
あどけない少年には似つかわしくない言葉が出てきた。

科学者になって、細菌兵器を。
凄腕ハッカーになって、世界に混乱を。

やけになっているような桔梗の言葉を、琥珀はほとんど聞いていなかった。

復讐。

それは、それは。


何かが、溢れてきた。

どこで聞いたかも忘れてしまった言葉が浮かんできた。

琥珀の口は、知らず知らずのうちに動いていた。



「本当の復讐っていうのは、生きて幸せになることだから。」





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