佳き日に
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漢詩では、柳は別れの植物というイメージなのです。
黄ばんだ紙を開いた瞬間、その言葉が目に入った。
独特の匂いが鼻につく。
雪はなんとなくその本をレジへ持っていく。
他にも何冊か分けて持っていく。
なかなか重い。
レジでは、眼鏡をかけた老人が大きな本を読んでいた。
「見ない顔だね。」
「最近ここに来たんだ。」
パチ、パチ、とそろばんで代金を計算する老人。
ここは、本屋と古本屋が一店舗ずつある町だ。
コンビニやスーパーはなく、小さな個人商店がある。
学校は小、中学校が一つずつ。
服を買うには隣町のスーパーまで行かなければいけない。
つまり、田舎だ。
そんな田舎に、雪は二週間ほど前引っ越してきた。
雪一人では大きすぎるほどの木造の家に。
大量の本を持って。
「4652円。」
計算が終わったのか、老人は無愛想な声で言う。
雪が金を払うと、すぐにまた大きな本を取り出し読み始める。
本を鞄に詰めこんで、雪は老人が読んでいる本に目を向ける。
「花言葉図鑑?」
老人は難解な古典文学でも読んでいるのかと思ったが、意外なことにそうではなかった。