背中合わせの×××
*開演*第一幕
待ち合わせの定番、仙台駅のステンドグラス前。まだ約束の10分前だというのに既に彼は私を待っていた。
文庫本を読むその横顔に一瞬見とれる。
すぐに我に返ったが後の祭りだ。自己嫌悪と自分への腹立たしさに私は動けなくなる。
全く、どうして私はいつもこうなのだろう。
苛立ったままの勢いで間野望夢に声をかけた。彼は文庫本から顔を上げると俄かに眉をひそめる。
「宮古、何怒ってんの?」
「別に・・・怒ってないよ」
私を見下ろしながら「ふーん」とだけ呟くと怪訝な顔をする。しかし興味が無いのかそれ以上何も聞いてこなかった。私は気を取り直し話題を転じる。
「ご飯食べてきた?」
「まだ。でもあんまり減ってない。朝飯10時だし」
「じゃ取りあえず美術館向かう?」
「あぁ」
じゃ行こうか?と、間野はさっさと歩き出す。こうした時の彼は私を待たずにどんどん歩いて行ってしまう。
そんな彼の態度に馴れてしまった自分を何だかなと思うが仕方がない。小走りになりながら急いで間野を追った。
結局私たちは歩き出してすぐに、軽食のとれそうなカフェへ入ることにした。
やや狭い店内は盛況だ。壁際の席に通される。昼時なのにラッキーだ。
間野が頼んだハヤシライスとコーヒー、私の抹茶のアイスとミルクティーが運ばれてくると、ここまで俄に張り詰めていた空気が和らいだ。いつもの間野との距離感にやっと落ち着いた気がした。
「アイスしか食わないの?」
「だって私も朝ご飯遅かったんだもん。間野は逆によく食べられるね。あんまりお腹減ってないとか言ってたじゃない」
「これくらいなら食えるだろ」
そう言って間野はふと笑った。彼の笑顔に自分がホットしたのを自覚する。