イジワル社長と秘密の結婚
すると、課長は寂しそうに微笑んだ。

「自信があったんだけどな。伊原を俺の彼女にできるって」

「本当にすみません……」

蒼真さんと結婚する前なら、即オーケーしていた。優しくて素敵な迫田課長と、私も付き合いたかったから。

だけど、今は蒼真さんが頭から離れない。

「他に好きな人がいるんだよな? 指輪をつけだしてから、怪しいとは思ったんだ」

「あの……」

どうしよう、いろいろ聞かれても答えるわけにはいかない。口ごもっていると、課長は私の頭を軽く叩いた。

「聞かないよ。言いたくないんだろう? ただ、俺を振ったんだから、幸せにはなってほしい」

穏やかな笑みを見せながら、課長は言った。最後まで優しい彼に、私は小さく頷いた。

今夜は、実家に帰ろう。蒼真さんと真由さんのことを、うやむやにできない。でも、蒼真さんを前にして、ストレートに聞き出す自信がない。

課長への返事をした今となれば、蒼真さんのこともはっきりさせなければ。一度、彼から離れよう……。



その夜、私はタクシーで実家へ戻った。久しぶりに、実家の門を開ける。

きっと、父には怒られるだろうけど仕方がない。そもそも強引な結婚だったのだし、今夜はここに泊まらせてもらおう。

チャイムを鳴らすと、バタバタと聞こえる足音とともに、ドアが勢いよく開いた。

「咲希か⁉︎ やっと帰ってきたな」

「どうしたの、お父さん? そんなに慌てて」

まるで、私が帰ってくるのが分かってたみたい……。

とふと玄関に目を落とすと、見慣れた男物の靴が見えた。あれ? この靴……。

「蒼真くんが来ているぞ。早く上がりなさい」




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