イジワル社長と秘密の結婚
私が今立っている場所は、高級住宅街の一角。そのなかでも、一等地に建つ一戸建ての家の前。
そうーー。社長の家へ、私は連れて行かれたのだった。
レストランで婚姻届にサインをさせられ、そのままここへ連れて来られてしまった。
もちろん、おとなしく来たわけじゃない。道中、私も社長も父たちを説得していた。
でも二人とも、まるで聞く耳を持ってくれない。そんなとき、社長が私に耳打ちをした。
『とりあえず、二人で今後の対策を練ろう』と。
たしかに、社長の申し出はもっともで、盛り上がっている父たちを、今すぐ説得するのは難しい。
それなら、社長と考えよう。離婚という形でも構わないから……。
「とにかく、中に入れよ」
「はい…」
父たちは先に帰り、私は社長と二人きりになった。なんて気まずいんだろう。
私は会社で社長を見かけることはあっても、社長の方は私を知らない。同じ会社の社員だとは言ったけど、社長にとって私は、初対面の相手だ。
茶系の南欧風なこの家は、周りをオフホワイトの塀に囲まれ、道端から中は全く見えない造りになっている。
遠隔操作で門のロックが解除され、社長に続いて中へはいる。
庭は丁寧に手入れされているけど、花はなく殺風景な雰囲気だ。