イジワル社長と秘密の結婚
その夜、私の心配は無駄だったかのように、蒼真さんの帰りは深夜になった。だから、話をする時間もない。

新車発売が迫ってきて、仕事はだんだん忙しくなってきた。もちろん、蒼真さんも……。

ゆっくり会話をする暇もなく、休日出勤も重なり、課長のことは話せないままだった。

そして、いよいよ新車のお披露目会の日がやってきたーー。

きらびやかなホテルで、新車PRのイベントが始まった。会社がひときわ気合いを入れていることもあり、招待されているゲストはVIPばかり。

メディア関係者から、モデルや芸能人、さらには大企業の社長や御曹司など、普段は見ることもない人たちが集まっている。

メディアの取材には、蒼真さんも対応していて、新車の特性や強みを説明する蒼真さんが、私には一番輝いて見えた。


私たち営業部からも、イベントには何人か参加していて、顧客たちの質問に答えている。

そんな応対も少し落ち着いた頃、部長が耳打ちをしてきた。

「PRイベントは成功だな。さすが社長。メディアでも、相当評価されているし」

「本当ですよね。販促ツールを任されたこと、今さらながら嬉しいと思いました」

新車を発売していくのはこれからだから、まだまだ気を緩められない。でも、前評判の良さから、明るい展望は持てれる。

イベントを眺めていると、課長がやってきた。

「お疲れさまです。部長、植木さんか探していましたよ」

迫田課長の言葉に、部長は「分かった」と言って、ナオのところへ向かった。




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