イジワル社長と秘密の結婚
「……ん。ちょっとやめて……」

強引なキスは、彼のもどかしさが垣間見えて、心はますます複雑になる。

それは私と純粋に一緒にいたいから？ それとも、真由さんのためにも夫婦でいようと思ってるの？

蒼真さんの体を押し返すと、彼は少し呼吸を乱しながら言った。

「なにか聞いたのか？ 咲希の変わりようが、納得できない」

話した方がいいんだろう。でも、誤魔化されたら、そこでおしまい。もし本当だとして、蒼真さんは正直に話してくれるんだろうか。

黙ったままでいると、蒼真さんは怖いくらい低い声で言った。

「課長のことは、とりあえずいい。それと、俺は離婚はしないから」

そう残し、蒼真さんはそのまま寝室へ入った。本当は、今日のイベントをお疲れさまと言いたかったのに。

どうして、こんなことになっちゃったんだろう……。



「伊原さん、金曜日はお疲れ様」

いつもどおり出勤すると、課長が変わらぬ笑みで挨拶をしてくれた。

告白なんてなかったんじゃないかと思うくらい、自然だ。

「おはようございます。イベント、お疲れ様でした」

今朝は、ニュースでも新車イベントを取り上げていて、嬉しくなった。蒼真さんとは、ほとんど口をきいてないけど、彼もニュースを見て、嬉しそうにしていたのが救い……。

「実は、伊原さんに紹介したい人がいてね。十時には来られるから、声をかけるよ」

「は、はい」

紹介したい人ってことは、仕事絡みなんだろうけど、私に？ 不思議に思いながら仕事を進めていると、言葉どおり課長は十時に私を呼んだ。

フロア奥の応接室に案内されると、そこには一人の女性が立っている。

私を見て、愛想のいい笑みを浮かべた。スラッとした、背の高いオリエンタルな美人で品がある。

上質なスーツを着こなしていた。

「伊原さん、紹介するよ。彼女は田辺真由さん。今度、伊原に担当してもらう取引先の担当者だ」


「えっ……？」

田辺真由さんって……噂で聞いた蒼真さんの元カノじゃないの……？




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