あの日のように。
前に、お父さんが家を出て行った。
あたしはお父さんが大好きで、なぜお父さんが家を出て行ったかも分からないくらい小さかったあたしは、涙を流しながら必死でお父さんを追いかけた。
今思えば、夜中にお父さんとお母さんがよく怒鳴りあっていたのを覚えている。
あたしが大声をあげて追いかけていると、お父さんがふいに立ち止まりあたしに「蘭」の花を一輪、手渡した。
「蘭の花のような女の子になりなさい」
という一言を残して。
あたしは涙をひたすら流し、お父さんの背中が見えなくなるまで立ちすくんでいた。


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