愛で散れる夜の純情
「―――っ女だと思っていたから、あたしは…!」
「体を見られても平気だと思っていたのに、ですか?」
思わずくすりと零した笑みに、ただでさえ赤かった彼女の顔が色を増していく。
「っざけんな変態!!」
「恩人にむかって酷いですねぇ。別に問題はないですよ、体中の血を拭いて清潔な着物に着せ替えただけでしょう?」
「拭っ…!!」
あぁ、面白い。
瞳に涙を溜めて湧き起こる羞恥や怒りに震えている。
何か文句をつけてやりたいが熱のせいで頭が回らないのだろう。
言葉にならない苛立ちを感じて心が震える。
これは存外いい拾い物をしたかもしれない。
「~~~っ帰る!!!」
「勝手にどうぞ。浴場はここを出て右に行った所です」
障子を乱暴に開けてドスドスと進んでいく彼女。
倒れられたら後が面倒なので距離を開けて付いていく。
数十分後、せっかく着せた清潔な長襦袢を脱ぎ捨てて元の血まみれになった彼女が現れた。
息が荒いのを見ると、着替えるのに相当手間取ったのだろう。
何が彼女にここまでさせるのかよく分からなかった。
「私の知ったことではないですが、一応言っておきます。気をつけて帰ってくださいね」
「…」
フラフラと玄関に向かう小さな背中から返事は返ってこない。