愛で散れる夜の純情
玄関の戸を開けると、外は既に星が瞬いていた。
淡い月光が遠くに咲き乱れる桜を照らしていた。
それを背景に少女が外へと溶けていく。
「…あたしの柄じゃねーけど、一応礼は言っておく。助けてくれてありがとう」
ついさっき聞いたようなセリフですね。
おそらくまた顔を赤らめているのだろう。
闇に紛れた彼女の姿はおぼろげで掴めない。
私は外に足を踏み出すことなく、敷居の中でそれに応えた。
「また泣きたくなったら、いつでもいらしてください」
返事は無い。
気配も消えた。
けれど一瞬、彼女が笑った気がした。
私は戸を閉め、月明りだけだった部屋に電気を灯していく。
――どうやら退屈だった私のセカイに面白いものが紛れ込んだようだ。