愛で散れる夜の純情
「アンタ、こんな広い屋敷に一人暮らしなの?」
「そうですよ」
「ふーん。家事とか面倒臭くねーの?」
「別に。もう慣れました」
「ふーん」
きっと、あなたは?と聞いて欲しいのだろう。
人に質問しておいて投げやりな言葉しか返してこないから。
泣きたくなったら来いと言った。
だからきっと何かあったのだろう。
「とりあえず貴女の名前だけは聞いておきましょうか」
「名前だけ?」
「えぇ。名前だけ」
けれど私は意地悪だから聞いてやらない。
核心をつくような質問はしない。
この気まぐれな猫が自分から言い出すまでは。
「ほんっと変なヤツだよな。普通、正体不明の女を家にあげるか?」
「名前だけ知っていればいいです。私は貴女がどこの誰かなんて興味がないので」
「…」
「来る者拒まず、去る者追わず、ですよ。いつでも貴女の好きにしたらいい」
にこりと微笑む。
彼女は『…そーかよ』と遠くを見つめるように呟いた後、再び菓子を頬張った。