愛で散れる夜の純情
「おや?」
純日本風の屋敷に似つかわないショートケーキと紅茶を運んでいる途中、庭にある桜の木の下で何かが動いた気がして足を止めた。
お盆を近くの部屋の机に置き、縁台の下から下駄を取り出す。
カラカラと音を立てて歩み寄れば、ナニか、は遠目からでも分かる程度に警戒し始めた。
はらはらと幻想的に散る桜に包まれて揺れていたのは黄金色。
「どうかしたんですか?」
「…!」
面白いくらいに肩を跳ねて反応した金髪の少女。
愛らしい顔立ちと反発し合う事なく、生れつきと間違えてもおかしくないような淡いブロンドがよく似合っていた。
大きな瞳は零れそうなほどぱっちりと開いている。
「失礼。私はあの家の者です」
「…あ、…」
あれ家だったのか。
喉からぜーひゅー漏れる吐息に混じってそんな呟きが聞こえた。
桜の木が何本も生えている広い庭に古い屋敷。
映画のセットか何かだと思ったらしい。
「どうやら、泣ける場所が欲しくて迷いこんできてしまったようですね」
頬に残る涙の跡に気付く。
人の屋敷に忍び込んでまで泣くとは何と酔狂な。
「…そっちかよ。普通血まみれだってことに驚くんじゃねーの?」