女王様は上機嫌【GL】
「殴らない」
そう言って、千鶴は首を横に振る。
「ただ、投げつけてくるだけ。皿とか時計とか空き瓶とか椅子とか、手当たり次第に」
想像すると、不快感がじわりと心に滲んだ。
顔をしかめたわたしに気づいて、千鶴が小さく笑う。
「たぶん、わたしに触りたくねーんだよ。だから殴らない。話もしないし」
「うそ」
「マジ。キレてなんか喚いてるときの声ぐらいしか聞いたことない」
「‥‥」
どうしてそんな台詞を笑って言えるの?
どうして。
笑うしかないから?
千鶴は空を見上げた。
「ハハオヤってのがいれば、少しは違ったのかもな。わたしも親父も」
千鶴の声を聞きながら、わたしも視線を上げる。
星がチカチカ輝いている。
「わたしを生んだせいで――死んじまったけど」