閑中八策
 もうひとつ、女系継承に反対する人たちの、少なくとも一部の人たちの本音は、「女系を認めると外部から入り込んだ人間に皇室を乗っ取られる」ことを心配しているのだと思う。
 女系継承を認めると、現在一般人である男性が女性皇族と結婚する事によって皇族になり、その子や孫が皇位を継承する可能性が出てくる。

 天皇自身の「皇統の血筋」は維持できたとしても、そういう男性が妙な野心を持っていた場合、皇室全体の実質的な支配権を握ってしまう危険がある。
 皇族の身分は取得しなかったが、似たような状況は平安時代に起きている。藤原道長が始めた「外戚による摂関政治」がそれだ。

 当時の貴族全般、一部の皇族も、結婚形態は「妻問婚」だった。
 男性が気に入った女性の家に夜ごと通い、生まれた子供は女性の実家で祖父に養育、教育された。
 その結果、実の父親より母方の祖父の影響力が強くなり、時の天皇と自分の娘をくっつけ、男子が生まれれば、次の代の天皇の「母方の祖父」として、天皇を裏から自由に操れた。

 この結果、皇統は確かに維持されたが、当時イコール政府であった皇室、朝廷は藤原氏に私物化され国の政治が「臣籍」の一族によって壟断された。
 女性皇族を通じての女系継承が認められると、これが再現される危険を恐れているのではないか?

 もちろん現行憲法下での天皇は政治に関与できないから、日本国全体が乗っ取られる事はないだろうが、天皇、皇室の精神的な影響力を悪用されたら、かなり大がかりな事が可能になる危険は否定できない。

 日本人が天皇や皇族の言動にホイホイ影響されて国家の進路を誤らないという確信があれば、女系天皇もそれはそれでいいだろうが、上記のような危険を心配しての反対派を納得させられるだけの「成熟した国民性」を今の日本人は本当に持っているだろうか?
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