閑中八策
 なまじ分離濃縮すると高レベル放射性物質になってしまうので、それを嫌がっているのか?
 だとしたら、そんな技術を開発しても使う気はないとはっきり言うべきである。低、中レベルの汚染がれきや汚染土壌は中間貯蔵施設にそのまま放置するのだ、と。

 「放置」と言うと聞こえは悪いだろうが、現代の科学技術をもってしても放射性元素そのものを消滅させる事は不可能だ。
 最終処分にしても、放射性元素が四方に放射線を撒き散らしながら、別の無害な元素に変身する(核種崩壊とも呼ぶ)を待つ事でしかない。
 ただ、それを地表に影響が出ない大深度地下に埋めてそうさせるというだけだ。

 放射性元素の分離、濃縮は手間ひまと何より莫大な金がかかる。かつ最終処分場でしか保管できない高レベル廃棄物が多量に出る。
 それなら低、中レベルのままの状態で一か所に集めて自然崩壊、自然減衰を待とうというのも、考え方としてはアリである。

 だが、低、中レベルの汚染のがれきや土壌を分離、濃縮なしで保管するという事は、双葉郡の中間貯蔵施設の規模は相当巨大になるという事。
 双葉郡への帰還をすべきかどうか迷っている避難者の人たちにとっては死活問題だ。
 中通り北部の、浜通りの一部より汚染がひどい地域に今後も住み続けようという人たちには、汚染レベルの将来の低減がどうなるのか、これも重大な関心事であるはず。

 なにより、放射性元素の分離技術を使う気がないのなら、その研究にたずさわっている科学者、技術者に無駄な努力をさせている事になってしまう。そんな技術を開発できるぐらいだから、かなり優秀な研究者であるはず。

 その人たちに使われるあてのない、役に立たない研究をいつまでも続けさせるべきではない。
 そんな時間と人材があるなら、低、中レベルの放射能汚染の中で今後とも安全に暮らしていくための、健康維持や放射線遮蔽の技術をこそ研究してもらうべきだ。
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