閑中八策
 天皇陛下はこの武蔵野陵の敷地にもう空きがないのではないか、という事をご心配されているらしい。
 なにせ地価の高い東京、武蔵野陵を拡張するにせよ、新しい御陵用地を購入するにせよ半端でない金がかかる。
 当然その費用は国庫支出、つまり国民の税金だから、自分は火葬にして小さな墓でよい、と言い出されたらしい。

 お気持ちは有難いのだが、しかし仮にも日本国の象徴である方の墓が「あれ、どこにあったっけ?」と後世言われるような粗末な物では、国民の一人としてはさすがに申し訳ない。せめて塔か御堂ぐらいの規模にはして差し上げたい。

 さて天皇の葬儀の方法は日本神道に則ったものになり、御陵も神社のような鳥居を入り口に立てるのが普通だ。武蔵野陵の御陵もそういう形式になっている。
 陛下ご自身の希望とはいえ、あまりに差がつく小さな陵では、将来陛下を懐かしんで参拝に行く人もいるだろうから、具合が悪いかもしれない。

 そこで明治天皇と同じ方式を取ったらどうだろう?御陵の場所と、陛下を追憶するための場所を別にするのである。

 もともと神道では「分祀」と言って、祭られている御祭神やご神体を収めた本殿と、参拝者がお参りする拝殿が別の場所にある例は珍しくない。
 菅原道真を祀った「天満宮」などは、日本中に分祀されている。

 だから今上天皇の御陵はご希望通りに慎ましやかな規模の物を武蔵野陵の敷地内に造り、陛下を追憶する施設を全然別な場所に置けばいい。

 ただし、御陵は神道式でいいが、追憶施設は神社というわけにはいかないだろう。一応日本国憲法は政教分離の規定があるからだ。
 宗教色を排除した、純粋な「平成天皇記念館」にして、陛下の遺品や、思い出の品を展示する施設にするのがいいだろう。
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