閑中八策
アメリカの教育というのは、高校まではゆったりと、社会人になった時に必要最低レベルの知識を身に着けさせる。
その代り、消費者教育など日本の学校では教えない、生活密着型の授業も多い。
またアメリカで「カレッジ」というのは、日本で言う職業訓練校、専門学校である場合が多い。日本で言うところの「大学卒」の比率はおそらくもっと低いはずだ。

そして大学に入るのは社会人経験を積んでからという人も多い。
10代から30代までの生徒が同じ教室で学んでいる大学はアメリカでは珍しくない。
また大企業の管理職になるにはMBAという学位が不可欠になっている。

これは大学院でしか学べない課程で、企業で五年から十年働いた人が改めて大学院でみっちりMBAの課程を学び、それを手にして初めてそれなりの企業の管理職募集の求人に応募できる、という仕組みになっている。

そのアメリカでも全体の失業率はもちろんだが、四大卒の就職難は深刻である。
むやみに高等教育の修了者を増やしても、失業問題の解決にはならないのは、アメリカ、韓国、イギリス、中国、どこの例を見ても明らかだ。

人間の知的能力が人生のいつごろピークに達するかは個人差が大きい。
学生時代はどうしようもない劣等生だった人物が、かなりの年になってからおそろしく知的に活躍する例は日本でも昔からあった。

18歳から22歳ぐらいの間にしか大学教育を受けられない、それ以後に高等教育を受けても人生の役に立たない、こっちの国情の方を変えるべきではないか?
少なくとも、底辺大学の卒業生を企業が大量に雇う事などあり得ない。
高学歴フリーター、高学歴ワーキングプアをこれ以上増やしてどうする?

むしろ、勉強が好きでない若者には高校出た段階できちんとした職に就き、その後必要に応じて退職なり休職して高等教育を受けられる、という制度にした方がいい。
もう中途採用は珍しくない時代だから、20代後半や30過ぎでも、それから必要に迫られて大学へ入る、という未来の方が望ましいはずだ。

今のままの状態で無理やり大卒を増やしても、問題は悪化するだけだ。
「学歴だけは高い馬鹿」を大量生産するのは、国の未来にとってはマイナスにしかならない。
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