恋時雨
SIDE 水咲


―――5年前―――


ある私立中学校の入学式。

「これから一年間よろしくお願いします」

優しそうな担任、同じクラスの人とも仲良くやっていけそうだ。

「俺、高倉翔。よろしくね」

隣の席の優しそうな男の子がニコニコしながら私に話しかけてきた。

「あ、私は筑路水咲です」

この時から、高倉君ととても仲良くなり、彼が有名チェーン店高倉グループの御曹司だという事を知った。
だが、何故かと“遠い人”だとは思わなかった。
それは、彼が“御曹司”と言う言葉が似合わない位の普通な男子中学生だったからだ。

「筑路!一緒に帰ろうぜ」

「いいよ、帰ろう」

いつもの帰り道の河川敷。
季節が流れるのは早く、今はもう冬。
日が暮れるのはあっというまで、夕焼けが私たちの陰を濃くした。

「寒いねー……」

「ああ、ちょっと座らない?」

高倉はそう言うと河川敷の傾斜に腰かけた。
私も後に続く様に、高倉の隣に座った。

「普通さ、御曹司って言ったら学校までながーい車が迎えに来るもんじゃ無いの?」

「ああ、普通ならそうなんだろうけど、俺はそういうの嫌いだから」

「贅沢者だなー、私は結構憧れるけどね」

「じゃあ今度迎えに来て貰おうか」

中学生同士の話。
ただ、私には少し気になることが有った。



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