恋時雨
「増渕、ちょっと来て」
俺は、空き教室に増渕を呼びだした。
「ごめん、なさい……」
「誰」
「あ…あの人は、高校1年生の鈴木翔斗君」
「そうじゃなくて、アイツはお前の何なんだって訊いてんの!」
俺の大きな声に、増渕はビクついた。
そんな事も如何でも良いと思うくらい、俺は苛々していた。
「……彼氏」
「アイツが彼氏なら、俺は何なの?」
「……彼氏」
「そういう事何ていうか判る?」
彼氏がいるなら、そう言ってほしかった。
彼氏がいて、それでも俺と付き合いたいと思ってくれていたなら、別れてほしかった。
俺がお前の、1番が良かっただけなんだ―――。
「二股」
それだけ言って、部屋を出ようとした時、増渕に腕を掴まれた。
それを振り払うと、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「結威……」
「呼ぶな、ウゼェ。」
2度と人を好きになってやるモンか……。
こんな感情を抱くようになるのなら、アイツを好きにならなきゃ良かった―――。