愛は満ちる月のように
悠に抱きついたままの美月の身体がビクッと震える。瞬時に、美月の涙の理由を悟った。


「まさか……無言電話か」


自宅までかけてくるとは思ってもみなかった。

関係者の間で、美月の夫である悠の存在は周知のこと。周囲を探られることがなかったわけではない。住所や電話番号はもとより、浮気相手の素性まで調べているかもしれない。

だが、悠がひとりのときは桐生の関係者がこんな形で接近してくることは一度もなかった。


悠は美月を引き剥がし、大股で部屋を横切るとリビングまでいく。

受話器を取ると――相手は無言だ。


「よく聞け! 私の妻にこれ以上近づいてみろ。貴様が誰であれ、全力で潰してやる!」


悠が叫んだ直後、電話はプツッと切れた。

苛立ちも露わに、悠は電話のコードを引き抜く。


「……ユウさん、ごめんなさい」

「どうして電話のコードをさっさと抜かないんだ!? こうしておけば、少なくとも嫌なコール音は聞かずに済む」

「でも……あなたにとって重要な電話がかかるかもしれないし……。これ以上迷惑は」


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