愛は満ちる月のように
何度目かの波に攫われ、美月は夢と現実の間を彷徨っていた。肌を撫でる冷たい風を感じ、目を覚ましたとき、ベッドの中に悠の姿が見当たらない。


(ユウさん……どこ?)


室内を見回すとルーフバルコニーに出る窓が開いている。外はもう真っ暗で……風はそこから入ってきていた。

おそらく、悠がバルコニーにいるのだろう。

美月はドキドキしながら身体を起こした。下腹部に鈍い痛みが走る。だが、それすらも心地よく感じて……。悠とまだ繋がっているかのような錯覚に、美月は恥ずかしくも嬉しかった。


悠は彼女の気持ちを察して戻ってきてくれた。那智の言うとおり、美月を欲しがり、二度と元には戻れない一歩を踏み出してくれたのだ。


(元の関係には戻れないけど、新しい関係を築くことはできるわ)


これからのことは新たに話し合って決めていけばいい。

無言電話の相手に叫んでくれた言葉――『私の妻にこれ以上近づいてみろ。貴様が誰であれ、全力で潰してやる!』それが美月の耳にずっと残っている。


< 107 / 356 >

この作品をシェア

pagetop