愛は満ちる月のように
美月は新月の夜空を見上げ、切ない思いを打ち消した。


「ユウさん……喉が渇いたわ」

「じゃあもう一本取ってこよう」

「待って!」


踵を返そうとした悠の腕を掴む。


「それでいいわ。……あなたが飲ませて」

「それは、どうやって?」

「決まってるじゃない。口移しで……」


美月は指先で悠の唇をなぞった。

かすかに悠は目を細めて、困ったように深呼吸する。


「こんな誘惑の仕方を、どこで覚えたのかな?」

「映画よ……確か、イチゴをヒロインに食べさせたあと、シャンパンを口移しで飲ませていたわ」

「イチゴもシャンパンもないけど……」


悠の返事に美月はクスッと笑った。


「構わないわ。イチゴもアルコールも嫌いよ」


悠は水を口に含むと、美月に口づけた。

唇の隙間から伝い落ちるように入ってくる水は、さっきと比べて生温い。お世辞にも美味しいとは言えないが、どこか背徳的で……彼女の全身に染み込んでいった。


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