愛は満ちる月のように
悠は唇を離し、喘ぐように言う。


「これくらいにしておこう。美月ちゃん、危険な遊びはもう充分だろう?」

「やっとわかったわ。ユウさんが私を“美月ちゃん”と呼ぶときは……本当は抱きたいときなんじゃない?」


そう呼ぶことで、美月との間に壁を築こうとしている。

だが、もう手遅れだ。一旦、壁を乗り越えて関係してしまった以上、再び築き上げるなんて馬鹿げている。美月には無駄なあがきにしか思えなかった。


「そう言って僕をやり込めたつもりか? 本当にここで襲いかかるかもしれないぞ」


少し乱暴で、男性的な声色に変わる。


愛を望むなら手放したほうがいい。

そのことは、恋の手管に長けていない美月にもわかるようなこと。このまま進めば、悠との関係はセックスだけになる。

特別な“妻”であり、守るべき“美月ちゃん”の立場を捨て、他の女と同列になるのだ。それはプライドの高い美月にすれば屈辱とも言える。

だが美月は、今、手の中にある温もりを放したくなかった。

彼女の中で、理性より本能が勝った瞬間――。


「ここで? 隣の棟の住民に見られるかもしれないのに? ムリよ。ユウさんにそんなことはできないわ。あなたは無茶をしているように見えて、ルールに縛られて生きている人ですもの」


それは挑発だった。


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