愛は満ちる月のように
美月がピルを飲んでいるのは事実で、三ヶ月滞在しても充分な量を持ってきていた。

悠の子供は欲しい。だが、父親に“最悪”と呼ばれたことを知れば、どう思うだろう。美月の本当の父親が、娘の存在をどう思っていたのか……そもそも知っていたのかもわからない。名前も生死も尋ねたことはなかった。

美月にとって父親は、藤原太一郎ただひとりだ。


(私は不幸ではなかったけど……)


十年以上、決して満たされない何かが彼女の中にある。

それを今夜、悠が埋めてくれた気がした。美月の存在に悠が価値を与えてくれる、と。そのすべてが幻と消えていく。

シャワーを思い切り回し、水圧を上げて美月は泣いた。声を押し殺し、外に聞こえないように……。

諦めてボストンに帰らない自分の愚かさに。自分を決して愛そうとはしない、悠の頑なな態度を恨みながら。

泣いて……泣いて……やがて冷静になった心が美月に告げる。


(泣いてても、誰も助けてはくれないのよ。これまでもそうだったじゃないの。思い切り楽しんで、離婚が成立したらボストンに戻ればいいだけ……)


月が満ちるまでの恋――。

それは、美月自身が課したタイムリミットだった。


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