愛は満ちる月のように
悠のオフィスで会った女性秘書の顔を思い出す。美月の継母と同じ年代に思えた。


もし、桐生の問題さえなくなれば、継母や小太郎とも普通に会えるようになるのかもしれない。

ただ、七年も離れた家族と元どおりになれるだろうか?

ボストン時代、本当に親しく過ごした悠とですら、これほどまでにギクシャクしているのに。


美月の顔は不安に曇る。


「休みを取るのが不満なのか? 僕もよく知ってるわけじゃないが、市内を案内したいと思ってる。他にも君の行きたい場所に連れて行くし……。夫婦というか、恋人同士のように遊んでみないか? その……離婚や子供のことはひとまず保留して。ダメかな?」


こちらを見ながら悠は心配そうに言う。

美月は慌てて、


「ダメじゃないわ! 違うのよ。家族のことを考えていたの。あの秘書の女性って、うちの母と同じぐらいに思えて……」

「ああ、川口さんと言うんだ。彼女は四十代前半だったと思うよ」

「母は今年四十二になるの。七歳のときに別れた弟は十四……今年十五歳よ。きっと、全然別人になってるでしょうね。家族の中に私の居場所はなくなってるかもしれない」


< 120 / 356 >

この作品をシェア

pagetop