愛は満ちる月のように
美月の剣幕に今度は悠のほうがビックリしたようだ。


「違う違う、うちの両親のことだ」


それを聞いたとき、美月は思い出した。


ボストンで結婚式を挙げても、日本国籍のあるふたりは正式に結婚したことにはならない。日本の役所に婚姻届を提出したのだが……。

そのとき、悠の両親は難色を示したという。

悠の母にすれば息子の身を案じてのこと。誘拐や監禁、発砲事件まで起こっていたのだから、当然かもしれない。


だが、“両親のこと”というのがわからない。


「ご両親が、私のことを疑っているということ?」

「いや、君のことじゃなくて……うちの親だよ。父は……母と結婚するつもりはなかったんだ。でも、母が勝手に僕を産んでいて……立場的に仕方なかったらしい」

「まさか!」


美月はひと言口にすると何も言えなくなった。


小学一年のとき、同級生の真が『うちの親は結婚十年くらい』と言っているのを聞き、不思議に思ったことはある。

なぜなら、そのとき悠はすでに中学生だった。兄弟はみんなそっくりだったので、真の勘違いだろう、と深く追求しなかったが……。


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