愛は満ちる月のように
だが、美月もごく一般的な女性同様、二階の婦人服コーナーから中々離れようとしない。

彼女はこれまで、洋服はなるべく目立たない地味で大人っぽいものを選んできたという。

悠自身、ボストンで暮らしていた頃は、美月のファッションを気に留めたこともなかった。学生らしい服装だと思っていたし、彼女もそれを好んで着ていると考えたからだ。

だがひょっとしたら、もっとおしゃれを楽しみたかったのかもしれない。


それに関しては、気配りが足りず可哀相なことをした、と悠は反省しきりだ。

そんな美月から、今日は何も考えずにショッピングを楽しみたいのだと言われ、それなりの覚悟を決めた悠だったが……。


フェミニンでお嬢様っぽい服から、露出度の高い女子大生のような服まで、試しに着てみては、悠の評価を確認しようとする。

この店で売っている普段着なら、高くても一着四桁を越えることはない。せめてもの罪滅ぼしに、と『試着した品は全部買ったらいいよ』そう声をかけたとき、美月の視線は急に鋭くなった。

慌てて訂正し、逃げ出す羽目になる悠だった。



ひとりになると昨夜のことが頭に浮かぶ。

美月だけは抱くつもりはなかった。これは言い訳だが、もし彼女が少しでも拒否したら、決して踏み越えることはなかっただろう。

理由は簡単。悠では美月を幸福にすることができないからだ。

彼女は血の繋がった両親に育てられなかったことに大きなコンプレックスを抱えている。だが、悠の目に、彼女は恵まれているように映った。


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