愛は満ちる月のように
七年前、美月の周囲にいる誰もが彼女を守ろうと必死だった。悠は美月の父親から、『娘を頼む』と何度も頭を下げられたことを覚えている。


あれがもし、悠の父であったら……。

感情的になったり、他人に頭を下げたりはしないだろう。


(いや……人目があればやるかもしれないな。何もかも、計算ずくの人だから……)


自分は父に似ている。それは幼い頃から言われ続けたことだ。

どんな女性に対しても真剣になれない。そんなところも、きっと似ているのだろう。


面倒な感情は抜きで、彼女を保護する夫の役なら悠にもできる。しかし、愛や家族を求め始めた美月に、自分のような冷酷な男は相応しくない。

だからせめて、彼女が“誰か”に束の間のパートナーを求めるというなら、自分にできるすべてのことをしてやろう、と思った。

それだけでなく……思いがけないほど、美月と過ごした夜は楽しかった。

美月も同じだというのなら、彼女が日本にいる限り、応じたいと思う。


だが、子供だけは作る訳にいかない。

自分には父親になる資格がないのだから……。


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