愛は満ちる月のように
支社ビルから出て、噂のことを考え振り返った悠に美月はそんな言葉をかける。
嫌味の口調ではない。むしろ、本気で心配しているみたいだ。複雑な心境で悠は答えた。
「社内にはいない。後々面倒になるから」
「でも午後の仕事は……」
「いいんだ。なんといっても“離婚の危機”だろう? ランチは? 僕はさっきの件でまだなんだが」
美月も話を済ませなければと思ったのか、「まだです」と答えた。
お気に入りの店には個人的な付き合いのある女性は連れて行かない。私生活に関わって欲しくない、というのが本音だ。
創作料理『十六夜(いざよい)』、微妙なバランスの月が描かれた看板が目に入る。その店に女性を伴うのは初めてだった。
支社ビルから南に五分ほど歩いた場所。
オーナー兼シェフの那智貴臣(なちたかおみ)は、市内のホテルにあるフランス料理店でシェフをしていた。十代から二十代の始めにかけてパリで料理を学んだと聞く。同年代ということもあって、悠は那智のことも、彼の作る料理も気に入っていた。
嫌味の口調ではない。むしろ、本気で心配しているみたいだ。複雑な心境で悠は答えた。
「社内にはいない。後々面倒になるから」
「でも午後の仕事は……」
「いいんだ。なんといっても“離婚の危機”だろう? ランチは? 僕はさっきの件でまだなんだが」
美月も話を済ませなければと思ったのか、「まだです」と答えた。
お気に入りの店には個人的な付き合いのある女性は連れて行かない。私生活に関わって欲しくない、というのが本音だ。
創作料理『十六夜(いざよい)』、微妙なバランスの月が描かれた看板が目に入る。その店に女性を伴うのは初めてだった。
支社ビルから南に五分ほど歩いた場所。
オーナー兼シェフの那智貴臣(なちたかおみ)は、市内のホテルにあるフランス料理店でシェフをしていた。十代から二十代の始めにかけてパリで料理を学んだと聞く。同年代ということもあって、悠は那智のことも、彼の作る料理も気に入っていた。